車を捨てよ、街へでよう

東京に来て半年が経ちました。

日本の中心地はこんなものなのかなというのが私の率直な感想です。おそらく東京に来た人が誰もが一度は感じることだと思います。

大抵の既製品・サービスは行き届いており、困ることもなければ、求めれば何かの娯楽に辿り着きはします。より強く求めれば更に質の良いサービスにも行き着きます。ただそこに自分の喜びがあるかといえば話は別です。私自身がそんなに娯楽を求めていないのが一番の原因で、リクライニングチェアの上でカフェラテをすすりながらケーキをつまみつつ何かを読んでいる時に至福を感じてしまいます。銀座がすぐ近くなので様々なケーキを試せるのはよかったですが、東京でなくてもいいんじゃない感は半端ないです。

また車を岩手から持って来ました。持っていく時には「東京では車はいらない」と多くの方にアドバイスを頂きましたが、凡そ「それはたぶん、貧乏人の戯言だよ」と冗談めかして返答していました。叩かれそうなその言葉は確かに真実でした。

私は紛れもない貧乏人になってしまったようです。確かに同年代の平均よりも給与は高く、社会的信用も高い状態にあります。ただ私が思う豊かさの3条件は「お金(信用)・時間・自由」であり一言で表すなら「お金と時間をしたいことのために費やせているか」です。この点においてどうしても首を縦に振れない現状の自分がいます。

いまの職場に入職する際に偉い方から4月に「ここは○○よりもブラックだから覚悟してね」という激励の挨拶がありましたがそれは「経験が豊富に積めるいい修行の場だから頑張れよ」という意味をちょっと不器用な言い方をしただけという解釈で受け取っていました(マスコミや野党が聞くと大騒ぎしそうな文言ですが、くだらない揚げ足取りをする時代もやがて終わりを迎えるでしょう)。

半年経ってみると半分はその通りでしたが、もう半分は業務遂行の非効率が乗っかって時間を消耗していっているなと感じます。特にそう感じたのは午前2時を過ぎるまで(無給の)仕事をして、食事は昼は食えず、夜もコンビニ弁当という日が連続していた時でした。せめてもの救いがコンビニがセブンイレブンであったことと、職場と住処が同じ場所であることでした。なるほど、そういう日が続くと自分の想像力が萎え、最大の関心事が「自分の健康」という、生きているというよりはかろうじて生かされているようなかんじになります。(ちょうどこの時に受けた職場の「ストレステスト」の結果は「あなたはとても生き生きしています」でした。洗脳テストか。)ずっとはこのようなことはできないですし、今後入って来る人のためにも働き方改革を地道に進めていこうと思います。そうでないと組織自体が壊れてしまいそうです。

さて、こんな貧乏人になってしまった自分が車を使って何をしているかというと月に1回or2回、近くの温泉にいって夜にひとっ風呂浴びてくるということをしています。東京のおおよその有名所は行ってみたんですが、うーん、まあまあという感じです。設備はしっかりしてるし、風呂やサウナの種類も多彩なのですが、温泉は自然豊かなだだっぴろい中で両手を頭の上の岩場に乗っけて、足をゆったり広げ伸ばしてフンフン鼻歌歌うのが一番なのでどうしても満足には至らないです。唯一良かったなと思ったのが箱根のさびれた旅館でしたが日常ではなかなか行けません。ドライブ自体も楽しさの1つですが最初こそ東京の道路事情や首都高の仕組みが新鮮で楽しかったですが、次第に楽しさは感じなくなってしまいました。車多いし、赤信号多いし。

さらに駐車場に置いてある自分の車に埃が溜まっていたりするのをみると、悲しくなります。走るために作られた車は使われず、乗るために手に入れた車の価値が日々無駄に下がっているのを見ると焦燥感を感じてしまいます。その不要な焦りは自分の中から平穏を奪ってさえいるような感じです。ということでバイバイすることにしました。車のためとか自分の精神的なものとかがきっかけではありますがバイバイすると決めたら出来るだけ高く売れてくれと思ってしまいます。現金なものです。

そんなこんなで東京の楽しみ方は車を使ったものではないなと思い至り、自分にとって東京の利点はなにかなと思いました。それはやはり「人が多くいること」。近くに日本最大の魚の市場があるので「うまい魚屋さんで季節を感じながら、5年ぶりくらいの友人・知人とサシで飲む」のがマイブームになっています。2、3週間に一度くらいのペースですが、結構楽しいです。店の人に「いつもので」と予約するといつもの席を用意してくれるのでホスト側の気分になって、もてなす気持ちも湧いてきますし、どんなにくだらない人でも5年分凝縮されているとなかなか良いツマミになります。むしろくだらない人ほど酒が進むという事実も発見しました。

そういえば週に一回くらい行く古くからあるハンバーグ屋さんでは毎回特別に季節の果物とコーヒーを出してくれるようになりました。最近では私の結婚相手を探してくれているようで、きれいな人がカウンターの近くの席に座った時に、気を利かしてかオーナーが蜜柑を2つくれました。そのパスに乗って1つをおすそわけして話し掛けてみたら既に婚約者でした。「婚約の段階だったらまだいけるんじゃない?」的な感じですごい後押しされたましたが慎ましい現代人の私としては約束は守ったほうが良いですよ的なかんじで文化的に振られてきました。昔の人は押しが強いようです。

あと全然関係ないですが、いきなりステーキのゴールド会員に昇格しました。東京のもうひとつの良いところは美味しいところがいっぱいあるというところでしょうか。車とはバイバイしたので今後は働き方改革を進めながら東京のお酒も少しずつ楽しみたいと思います。