教科書について

今回の項では研修医の方向けにオススメのの本を紹介したいと思います。

初期研修を始めた時に最初に困ったことは、どのように研修の内容を身につけていくかということでした。2年前の就職時に就職先の偉い人から「初期研修の間は一冊も教科書を読まなかった」という教えを訓示されてそのまま受け取って行ったらオーベンに「本読んだの?」と言われ、「どんな本がお薦めですか」と問えば「そんなもん自分で探せよ!」と罵られる始末。一個上の先生に聞きたくても皆外病院に出ているという感じだったので、うーむ身動きができないという感じでした。

まず、医学をどう医業に持って行くかなという感覚がつかめればあとは早いと思います。
医学は大学で習った通りですが、医業が「その業界の中で慣習的(理論的に)に正しいとされていること」「論文でエビデンスが実証されていること」をもとに「病院が仕入れている資機材の中で医師-医師間、医師–保険者間、医師–患者間でコンセンサスが得られそうな治療を(インフォームドコンセントやチーム医療を前提に)医師の判断で進めていく」というものである感覚がつかめれば、ある程度皆が良いと言っている教科書を読めば疾患や治療の手順の見当がつくのだなとわかります。(もちろん一次資料をあらゆる分野で読み解いて本当に正しいかどうかを検証していくのが至極真っ当なやり方だけれども、膨大になっちゃうから。自分が是非とも知りたいものでなければ、とりあえず私の鶏の記憶力では無理)

自分の中でよかったなという書籍をランキング形式にしてまとめます。このような理解しやすいけれども陳腐にならない正道を示せる書籍は私みたいな不勉強な医師たちが担当する患者の幸福度を上げるのに十分に寄与していると思います。私も大変お世話になりました。有難うございました。これからもお世話になります(2回目、3回目読むとなぜか新しい知見が得られる・・・あぁ鶏の記憶・・・)

10位 ハリソン内科学

言わずとしれたハリソン内科学。あらゆる疾患を網羅的に解説しているが実際の診療にそこまで使えるかといったら疑問符がつく。書棚に飾るという目的なら原著の方がかっこいい。以下紹介する本はなんとこのハリソンよりもお薦めしたいという意図での10位での登場とさせていただいた(黒川先生すみません・・・。)

9位 レジデントのためのやさしイイ呼吸器教室

呼吸器の基本を抑えるにはこの一冊。題目の通りにとてもわかりやすい表現で疾患のイメージや病棟の酸素指示など瑣末だけど実は皆やっているけどよくわかっておらず適当に済ましている部分にまで踏み込んで解説している。研修医だけでなく、看護師にも勧められる一冊だと思う。

8位 医療イノベーションの本質

医療経営や医療行政などの本は初期研修の間に十数冊は読んだがおおよそほとんどの書籍で当たり前のことしか書いていない。ただこの書籍は日本語訳が残念だったものの、アメリカの面白い事例が紹介してあった。ミニッツクリニック:医師なしの看護師のみのクリニック。医療費は3−5割減、患者満足度めちゃ高い、医療訴訟なし。これからの私たちの医療を考える上で非常に重要な事例になると思われる。医療の問題が医師不足で医師を増やせとか騒いでる社会学的なお偉いさんも見受けられるが、想像力がないか利権で視野が曇っているとしか思えない。若い世代なら技術革新と規制緩和の方向が私たちの子供に対しても健全な方向だろう。なんか興味が湧いてきたでしょ?

7位 山下武志シリーズ

当直をしていると一人で幾度となく心電図を読まなければいけない機会が訪れる。キャッチーな題だが正常かどうかを3秒で判断できるということ。これだけでも助かるし、不整脈にあったらまず何が大事なのかを念頭におくだけで一つのストレスが解消される。未発見の心房細動の患者に出会った時に、心房細動➡︎脳梗塞➡︎出血性脳梗塞みたいな初期研修医あるあるな不安達が解消されていく。

6位 医師として知らなければ恥ずかしい50の臨床研究

臨床医なら興味深く読める臨床研究が紹介されている。Hgb10.0以下から輸血するべきかHgb7.0以下から輸血するべきか明確な根拠を持って言えない人はこのシリーズを読む価値があるだろう。どちらの書籍でもこの話は掲載されているがどっちも買ってくれ。

5位 寝転んで読める抗菌薬シリーズ

抗菌薬についてこれだけシンプルに覚えやすくまとめられたのは書籍は稀有と言っていい。第3世代セフェム経口薬が効かないというのは(某先生のおかげで)あまりにも有名な話だが、虫歯治療した来た時にフロモックスを処方されたことに驚いた。それを歯科医師会の結構なお偉いさんに言ったら?的な感じだった。同席していた厚生労働省のお偉いさんはもちろんそういうことは知っていたみたいで「保険を切ったら少しはまともなことするようになりますよ」と言ってみたがあんまり乗り気ではなかった。保険点数一つで日本の抗菌薬の使い方は変わると思うけどなー。

4位 大村智/ロシナンテス

言わずとしれたノーベル賞受賞者の大村智先生。ペニシリンの発見と同様の微生物からの抽出という何も目新しくはない手法だが出くわした土を片っ端から調べていくその非効率とも言える地道さと、土をいかに効率良く解析していくかの工夫、またどのように研究所を経営していくかなどその執念の物語は胸が踊るものがある。エバーメクチンを3億円で売り渡さずにロイヤリティで200億円収入を得た話はその才気溢れる経営眼を端的に表している。またイベルメクチンをメルク社がアフリカの人たちのために無償供与すると発表した時に大村先生が憤慨したという話もあり、面白く読めた一作だった。
また九大生なら是非ロシナンテスの物語は読んでほしい。どのように困難に向かっていくか、どのように切り拓いていくかを丁寧に川原先生自身の気持ちを表出しながら描写している。名著ではないが、後輩達への愛情が感じられる一作。土とレンガの診療所プロジェクトというクラウドファウンディングには一口だけ(3000円、多分レンガ一個分くらいの価値)協力した。建つといいなと楽しみにしている。

 

3位 Rola’s Kitchin

大村先生よりも川原先生よりもローラが好きだ。飲み会とかで「好きなタイプは?」と問われたら「ローラです」と答えて毎回微妙な雰囲気が流れる。「頑張ってるから」と言ってもダメだった。一回だけ「頑張ってる人とかが好きかな」と言って追加で「イモトアヤコとか」と言ったらウケた。飲み会では後者を使うのが良さそうだ。
ちなみにこれは料理本だが、シンプルで綺麗で美味しいというのが性格的にマッチする。この中で紹介されている「ネバネバそば」を三陸産のメカブと岩手県産のつゆで作るとすごく美味しい。

2位 画像診断に絶対強くなるシリーズ/ユキティ

放射線科となってから部位ごとの専門書をバーっと買って揃えたのだが、これらの絶対強くなるシリーズは各部位の大事なところをピックアップして分かりやすく解説してあり初期研修医向けにオススメできる。と言うより今でもお世話になっている。一番右のユキティというのは岩手県の病院の放射線科の先生。大きな病院にたった一人の放射線科の先生で多忙な上にこういった執筆活動や朝の講義などもされる教育熱心なパワフルな先生。私もランチオンセミナーにご招待頂いて美味しいお弁当もご馳走になった。私のような孤児みたいな医者にはとても有難い先生でした。(それでも私が一番尊敬している放射線科医はこんな私にも読影もIVRも高いレベルで教えてくださる今の師匠ですけどね笑)

1位  ステップビヨンドレジデントシリーズ

何と言ってもこれ。林先生のこのシリーズのおかげである程度医者として何がマトモな医療になるのか教えてもらったようなもの。研修医は読むなと書いてあるけれど、初期研修医がやりがちなことや、その疾病に対しての処置のエビデンスが具体的に記されており、この本のおかげである程度救急ができるようになった。福井県には足を向けては寝られない。御礼奉公と言ってはなんだが林先生の提唱する悪の軍団に是非入れて欲しい。悪どい雰囲気には少し自信がある。

医者となり学生の頃より色々な経験をするようになってからは教科書を読むのが楽しいもんです。色々な経験をさせてくれる病院を選んだら、あとは自分に合う本を探してみてくださいね。

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写真は白神山地の渡り鳥アカショウビンでした。綺麗ですね。