医師の専門を決める

医師も5年目が終了しました。
これで放射線科専門医の受験資格が得られたことになります。また、がん治療認定医試験にも合格しました。

私より下の代は専門医機構のドタバタで不確実なことが多く自分の専門を決めるのも一苦労していると聞いていますが、私の代ではシンプルに必要な症例数と年数と試験をこなせば良いというので助かっています。この状況の自分が専門を選ぶことについて書き残して下の世代に役立ててもらえるかは微妙ですが「専門医資格を取る」ことではなく「専門を選ぶ」という点で書いて行こうと思います。

医師は初期研修2年間を経て、次に自分の専門を選び2-5年間は後期研修医(専攻医)として働き専門医の受験資格を得ることができます。なので初期研修医の2年目の中盤辺りで勤め先を決めて、専門取得プログラム(専攻医採用)に応募する必要があります。

専門を選ぶというのはちょっとしたプレッシャーです。自分が好きなものを選べば良いというのはその通りではあるのですが、今後生涯に渡って付き合っていくと思われるもので、「学問」をするという側面と、「職業」という暮らしの術を選ぶ側面があるからです。特に後者は「金銭」と「時間」のバランスが鍵になってきます。

少し細かく見ていきます。

金銭:美容外科など自由診療を除けばある程度1000万-2000万/年程度の幅で動き、多少イレギュラーな働き方をすればそこから+αで追加される。もちろん開業などすれば話は別。また、ある程度保険診療で保証されるため金銭面はあまり専門を選ぶ際の論点にはならないが、+αの部分は麻酔や外科手術や内視鏡や透析を行えるとかなり有利になる。また都会より田舎を選べばどの科でも給与は高くなる。

時間:これが所謂「働き方」という側面になり各科で大きく異なる部分になる。もちろん外科や救急科は労働時間が長く、精神科や放射線科などは労働時間が短い傾向がある。ただ一言で労働時間とは言っても例えば外科のように自分が手術した患者さんに対応する傾向があると仕事の区切りが付きにくい場合や、夜中働くことも多いけど主にチームでの対応になる救急はオンオフは付きやすかったりする。また私が選んだ放射線治療科は科の傾向として労働時間が短く、労働時間中も比較的ゆったりしている(他科の医師が放射線の適応を理解していない、あるいは放射線治療の医師の発言力が性格的に弱いこと多い)が当院のような症例数も非常に多く緊急入院もこなしていく病院だとかなり朝から夜までせわしなく動くことになるので科が同じでも選ぶ病院によってかなり変わってくる。

時間に関する議論はまだ続きます。

最近は女子を敬遠する医学部不正入試が話題になりました。女性が生物学的に体力(または就労時間・期間)が男性に劣り、また日本の社会通念上も家庭とのバランスを求められることから、各大学にとっては組織維持のための労働をする医局員確保の手始めである医学部入試で女性を敬遠することは、今の医療界、特に病院の幹部の方々の組織構想力や実行力の低さを鑑みればある程度理解できる事態です。

また厚労省が2019年3月28日に提出した「医師の働き方改革に関する検討会 報告書」でも時間の議論がなされています。時間外労働をどうカウントするかや、法で定める時間外労働許容時間が長すぎる(年間1860時間以下までなら許容される、ちなみに過労死ラインは960時間)などの突っ込みどころは満載ですが、やはり医師の働き方は時間の面からおかしいと、たかだか国民の0.25%にしか相当しない医師に対して国が働き方を示してきたのは、医療界が外圧なしには変われないことを示唆しているようにも思えます。実際に国民全体の最適化を考えるなら医療の持続可能性(及び発展性)を鑑みた働き方に変えていくべきなところを各医局や診療部門の短期的な視野からの部分最適から逃れられず、この人口構成や財源、テクノロジーが著しく変動した中でここ数十年働き方が変わらないのは一つは現在の40代〜60代の医局を運営する医師達の怠慢なのだろうなと思いますし、それが所謂縦社会の弊害でもあったのかなと思われます。

ただ、労働の仕方は一旦置いて、医師として専門を身につけていく作業は楽しいことです。

岩手で1年だけ救急もしたのですが、救急隊と共に救急車に同乗したり技術を伝えたりすることで、日本の救急システムの不備が見えてきて、例えば救急隊にも簡単なトリアージシステムの開発や血糖測定などの簡便なガイドラインを作ることと平行する医行為の制限の緩和、あるいは一般の方々やコメディカルの方々にありふれた救急疾患の対応をわかりやすく伝えることなどで救える人を多くしたり、医療機関のパフォーマンスを高めることができるなと考えついたり実行するのは専門に入ってくるからこそと思えます。東京にきてから本格的に放射線を学ぶようになりましたがCT、MRIの仕組みや特性を知ることから始まりx線、電子線の長所短所、リニアック機器の進歩や小線源治療の適応、応用としての放射線免疫学や、近い分野としての光免疫療法などの知見を得られたりや、マスコミの報道の虚実が見えるようになるので先進的なAIベンチャー企業との技術革新の発案・議論ができたり、実際の臨床では既存の治療では対応が難しい患者さんの治療戦略の立案などが出来るようになったりと専門はその「辺縁」を感じさせてくれる魅力があります。

もちろん、「辺縁」を探求する楽しみ以外にも、所謂ガイドラインに載っている「中心」の治療の再現性の精度を高めることができれば他の科の医師達から頼りにされたりと、一人前の医師になっていく感覚がありそれも一つの充実感で、どの科を選んだとしてもその喜びは感じるものだろうなとは思います。

ということで専門を選ぶ際には
「お金」「時間」という職業としての部分と「辺縁」「中心」という部分で、前者は医局に入局したり病院に就職したりする場合は(まだまだ医師の働き方の整備が整っていないものの)ある程度安定した目算が立ちやすくなるので自分の臨むライフスタイルかつ後者の興味ある分野を選べば良いと思いますし、
私のような「辺縁」に興味がある場合は家庭を持つなどを暫定的に諦めれば(すでに実力や実績がすごくあったり、パートナーに苦労させることこそ愛だとかの議論はまた今度)如何様にもなるので学生の頃や研修医でローテートしながら自分がピンときた科や分野を選べば良いかなと思います。自分で好きな専門を決めて良いというのは日本の良いところではあると思っています。

もう平成も終わりますね。
自分の専門を持ちながら新しい時代を生きていきましょう。

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