医師は守られるべきか

先日、病院で上級医の先生にこのような紙を渡されました。

「外科医の早期釈放を求めます」
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この事件の大まかな点を整理すると、
・2016年8月25日に外科医師が逮捕され、9月24日に起訴された
・身柄を拘束され続けている。
・根拠は2016年6月乳腺手術直後に医師からわいせつな行為をされたとの患者側の訴え+(患者の乳房からの唾液検出)
・病院側は捜査に(全面的に)協力しており、証拠隠滅の可能性はないにも関わらず拘留

病院からの発表が主で警察・検察側からの公的な発表がないので少し情報が偏ってはいるとは思いますが、当事者となった柳原病院が病院として大々的に抗議の意を示したことを考えて見ると少なくとも出されている情報で虚偽はないのかなと思います。

これを医療者が見ると完全に冤罪に見えます。私も署名しました。
根拠が手術後直後の患者の証言(病院の説明では術後35分以内)というところでアウトです。麻酔から覚めてからすぐだと患者さんが混乱している可能性がある。泥酔している人の言うことを信じないのと同じです(相槌はするけど)。

この事件は反響を呼び、10月20日には2万票近くの署名が集まり、東京地方裁判所に提出されました。ただ、今のところ釈放されたとの発表はないようです。

この問題ですが私個人として気になった点が一つ。それは署名の説明文の末尾の文言でした。

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外科医師を守る会

これを見たときにちょっと違和感を感じました。
私たち医療者から見ると(疲弊している)外科医師を守る会に見えますが
恐らく一般の人から見ると(既得権益側の)外科医師を守る会に見えそうです。

この署名の宛先は地方裁判所になるので後者です。署名する人の対象も後者が多数のはずです。東京地方裁判所が拘留を許可し続けているのは驚きですが、それでも多くの人に内容を理解してもらう努力は必要だと思います。

・(限りなく無罪に近いが有罪・無罪の判決の日時を待つし、その判決結果は地方裁判所の判決として重く受け止める。)ただし、拘留をし続ける法的要素がないし、明らかに人権を侵害している。

が要旨であるので(不当な拘留で人権侵害をされている)外科医師を(裁判所・警察/検察から)守る会という意味のはずです。裁判所に真っ当な判断をしてよ!と抗議しているので上記の(疲弊している)外科医師を守る会/(既得権益側の)外科医師を守る会の両方とも違いました。一瞬外科医師を守る会というのは外科医師を守るためにロビー活動している会なのかなと思ってしまいましたがググる限りではそんなことはなさそうです。思い切って「真っ当な外科医を真っ当に裁いてもらう会」ぐらい中立でも良かったと思います。

とりあえずこの一件は今後どうなるかを見守ることになります。司法の真っ当な判決を望みます。
今回のことで私が考えることはそもそも捜査になったのが
・麻酔から覚めきっていないことをいいことに患者にわいせつな行為をしやがってという患者の誤解
警察側に医師を逮捕するのは表彰に値すると思っている雰囲気がありそうなところ
※大野病院事件:警察/検察が正当な医療行為をした産科医を逮捕/起訴した事件。逮捕した警察署は福島県警より表彰された。(医療者側から見ると、病態から見て母体の危険性を患者に伝えていたのにも関わらず、高次機能を持つ病院での手術を拒み、安全担保のための子宮摘出を拒否した患者の帝王切開術で子宮内からの出血が止まらず死亡に至り逮捕起訴された事件。医療の正当性は認められ、無罪判決となったが産婦人科医療の萎縮を招いた事件。逮捕した警察署は無罪判決が出る前に福島県本部長賞を受賞。問題がこじれた原因に福島県が遺族への支払いのために医賠責保険利用の根拠として医師の過失をこじつけた側面がある)。

どちらも医師に不満があるのだろうなと思います。私も含めて医療者はこのような2者が相手だとかなり警戒すると思います。

前者の場合:患者さんの医療不信がある場合、かなり説明難度が上がります。私の言うことを聞いてくれるようになった患者さんの事例では「前来た医者はごまかしばっかり言っててムカつくから虐めてやってよぉ・・・」とかありましたが、おそらく言っていることは同じです。「ここまではこうなるとわかるが、ここからは私もわからない。どうしますか?」とはっきり言うだけでスッキリしたようです。今度は逆にはっきりと「そのような医療の使い方は医療保険を悪用しているようなもの。自分たちは楽して若い人たちに負担を押し付けているようなもんだからダメです。」とか言うと「なんだあの医者は・・・」と言われます(希望した人に適当に病名つけて入院させたりしないってことですよ。病院の利益になるからといっても。)。日々医学知識も上積みしたり感情の機微を読み取るようにしたりと説明スキルは上がってはいますが、おそらくかなり上手な人でない限り一人でトラブルをなくすことは不可能だと思います。医療の世界はある意味特殊で、相手の知的/人間的性質が幅広い点があります。私は陰で看護師さんたちにフォローしてもらっていますし、他職種でケアしていくと言うのが真っ当な手法かなと思います。

後者の場合だと尚更厄介です。死亡した患者さんが搬送されたりすると警察から事情を聞かれますが、正直、毎回対応が嫌です。当直などで疲れた頭の状態で聞かれても不用意な発言で言質をとられて誰かに迷惑がかかるのではないかとか、「なんのためにそんなことが知りたいのか」が明確ではなくて質問に苛立ってしまうことなどがあり、警察に何か聞かれて良かったことが一つもなく時間を取られるだけという意識があります。課は違いますが、しょーもない交通違反の罰金徴収しているというイメージしかない。医療者として警察ありがとうと思ったことがなく、もちろん相手方も公の仕事なので協力はしますが態度に現れているところはあると思います。大野病院事件や今回の事件のことなどを知ったりするともう相手にしなくてもいいんじゃないかとさえ感じてしまいます。おそらく大方の医療者はそのような印象をお持ちだと思います。

そういう印象が医療者側にあると当然警察側にもそういう嫌な印象が出き上がって来るのだと思います。ただ医療者から積極的に警察にお世話になることはないので、警察/検察側に医療事件の扱い方のガイドラインを規定してもらうとか、過去の過ちに関しては一旦清算する(謝罪が一度あるだけで0から新たに良好な関係が築けると思います。双方に常識と良心があれば)など、組織の独立性は保ちながら信頼される組織になって頂ければなと思います。

一方で医療界側からの歩み寄りもあってもいいのかなと思います。こういう事件が起こる度に、警察/検察の方に良識を持って対応してくれと批難・抗議するだけでなく、患者側からの訴えがあった場合は(有罪/無罪のそれぞれの可能性があることは考慮して)、病院業務を平常通りに進めること&被害を拡大させないこと&証拠隠滅の恐れがないことを達成できるようなガイドライン作りに協力してもいいのかなと思えます。そうすれば「医師を守る」という発想から「社会が機能する」ことに一歩前進できて似たような不幸がループされることはないだろうと感じました。

医学部の講義や国家試験でもう少し法律に触れる機会があっても良かったですね。終わり。

「医師は守られるべきか」への2件のフィードバック

  1. 最後の「歩み寄り」の話まで読んでホッとしました。
    医療機関の職員が「地域住民の健康と命を守る」ことと、警察官が「地域住民の安全を守る」ことは、かなり似ていると思っています。
    この2つの職種が互いに警戒したり、非協力的であったりしていては、その地域の住民は不安に感じるのではないでしょうか。あくまでも一般論ですが。
    今となっては懐かしい話ですが、大学通り沿いの病院に当直していた頃は、他の医療機関では余り経験できない、県警からのいろんな依頼を受けて協力していました。
    「地域住民の公益」という同じ目的に向かって、共に歩める専門職だと思っているので、もっとお互いに理解を深める活動があってもよいのかもしれませんね。

    1. 集団としては「地域住民の公益」という目標ですが、その集団の中の個々人は同じ目的に生きているとは限りません。また仮に同じ目的に生きていると仮定しても互いの権利を振りかざすと互いを邪魔し合うことになるので、一定の取り決め(ガイドライン)をしておくことが不幸を避ける手段かなと思います。将来的に共に歩める専門職になれるといいですね。

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